Greeting
ごあいさつ
国立大学法人大阪大学接合科学研究所は2022年に創立50周年を迎えます。この節目の年にあたり、「接合科学研究所創立50周年記念事業」を立上げ、先人たちが残された輝かしい業績と社会貢献の足跡を辿りながら、創設時の初心と使命を学び直し、現在を見つめ、そして次の50年に向けて本研究所の歩むべき道を見極める大切な機会といたしました。
本研究所は、日本学術会議の勧告に基づいて、1972年に本学の独立した部局である「溶接工学研究所」として設立されました。これは、工学系で我が国初の全国共同利用研究所として、溶接工学に関する総合研究を目的とするものでした。そして、科学技術の着実な進歩と発展、ものづくりの変革とグローバル化の大きな潮流の中で、「つなぐ」ことへの産業界の要望と期待がより高度に多様化された結果、1996年に「接合科学研究所」に改組・改称されました。本研究所は、1972年に設立されて以来、「溶接」から「接合」への変革・転換を遂げながら、溶接工学・接合科学の基礎・応用研究を精力的に展開し、その結果、溶接・接合分野における我が国唯一、世界屈指の総合研究所として認知されるに至っています。
溶接・接合の学術は、物理学や化学をはじめ、電気・電子工学、機械工学、材料科学、構造力学、破壊力学、信頼性工学、情報科学など多様な学問から成り立っており、それらをつむぐことにより、はじめて接合科学として体系化されます。一方、技術は、科学研究の成果や知識を生かして人類社会に貢献する方法であると捉えると、学術とつむぎ合うことにより、はじめて技術となります。そして、学術と技術は自然に生まれて、自然に育つことはありません。そこには活躍する人が必要です。学者、研究者、技術者、技能者、学生等々、多様な人材がつむぎ合うことにより、学術と技術は誕生し、育ち、発展し、次の時代に伝えられます。
過去から現在、そして未来へと、我われ人類が自らの手で築き上げてきた溶接・接合に関わる有形・無形の成果に新たな発見を付け加えながら、次の世代へ継承しなければなりません。
さて、本研究所の原点は1944年に大阪帝国大学工学部に設置されました熔接工学科にあります。1945年の終戦後も溶接工学科として産業界に数多くの卒業生を輩出し、我が国の溶接分野を先導する教育研究拠点として、ものづくり産業に大きな貢献を果たしてきました。溶接工学科は、現在、工学研究科マテリアル生産科学専攻生産科学コースとして進化・発展しながら継承され、溶接・接合分野における工学研究科と本研究所の強固なつながりによって、産業界から「溶接の阪大」と呼ばれるまでになりました。
いま、未来に目を向けて見ると、近い将来に起こりうるメガクエイクなどの巨大災害に対応できるインフラや建設物などレジリエントな都市設計はもとより、感染症パンデミックなどによって激変する市場の価値・規模やサプライチェーンの世界地図に対応できるレジリエントなものづくりの構築が地球規模のグローバルな課題となります。しかし、そのひとつひとつは、国や地域、あるいは宗教や文化によって様々な人々の暮らしに裨益するものであって、地域ごとの社会課題でもあります。他方、溶接・接合は、インフラや建設物をはじめ、ほとんど全ての工業製品で必要な技術であるため、安心・安全でレジリエントなものづくりの要素と言えます。カーボンニュートラルの実現を背景に、持続可能な発展を育む社会の構築のため、ものづくり自体がレジリエンスを達成しなければなりません。
本研究所は、常に裨益者である市民への貢献を意識し、民間企業群との産産学共創、他大学・研究所とのアカデミア共創、海外の大学・民間企業との国際共創を好循環させることにより、多様なステークホルダーとの共創を活性化させ、様々なフェーズに新たな社会を創造する場をつくりたいと考えています。そして、次の50年の人類社会のニーズに応え、健全で豊かな人類の繁栄と持続的な発展に資するべく、努力していく所存です。
「接合科学研究所創立50周年記念事業」に対する皆様のご理解とご支援を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
大阪大学接合科学研究所長(創立50周年記念事業実施時)
田中 学
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